2011年7月24日日曜日

【向田邦子の世界「阿修羅のごとく」を見る】

先日NHKで3夜に渡って再放送されたドラマ「阿修羅のごとく」を見た。

本放送は1979年、今からもう30年以上前である。ほんの子供の頃のことだが、筆者は本放送を見ている。恐らく親が見ているのを一緒に見ていたのだろう。

筆者は現在もほとんどの連続ドラマを見る「ドラマおたく」だが、本当に心に残る傑作は1年に1本出てくるかどうかだ。特に最近のドラマは過去の作品の焼き直しにしか見えない内容の物や、視聴率狙いのキャスト主体の脚本作品が多く、夢中になれる物はほとんどない。

「阿修羅のごとく」は、30年も前の作品だが、現在見直しても傑作だと思えた。ドラマ史に残る1作だ。

子供の頃に見た作品が、こうも脳裏に焼きついているというのは尋常ではない。今回の再放送の前にも何回か再放送を見た覚えはあるが、様々なシーンが鮮やかに記憶に蘇ってくる事に軽く身震いした。実に多くのシーン、多くのセリフが自分の中に残っていたのである。

家族の物語であり、男女の物語であるこの作品は、見る年代でまた感覚が違う。子供の頃に見たこの作品と、20代で見た再放送と、そして今回見た再放送では、私自身の女のしての立場が大きく変わっている。

長女の家に愛人の本妻が押しかけるシーンでは、昔はただの「恐い女」にしか思えなかったが、今回は本妻の哀れさに涙が出た。息が詰まるシーンは、また新たな感動となって心に残る。10年後に見た時には、また違う感慨が生まれる事だろう。

作品中のあらゆるシーンに流れるトルコの軍楽が、また耳に残るのである。愛人の出現を、家族の一大事を、馬鹿にするように、また哀れむように、励ますように、この音楽は流れ続ける。子供の頃からずっと、これほど自分の中に残っているドラマのテーマ曲は他にない。まるで自分の人生の中にもずっとこの曲が流れ続けていたかのように感じるほどだ。

電話が携帯ではなくてカバーが掛かった懐かしい家電でも、街並みが昭和の空気その物でも、このドラマの語るテーマは全く古臭くは無い。家族のことや男女のことは、時代が変わっても何も変わらないということなのだろう。向田邦子の脚本、和田勉の演出、このドラマのスタッフは本当に素晴らしい。


さて、NHKは7月26日から、向田邦子原作のドラマ「胡桃の部屋」を放送する。「阿修羅のごとく」三夜放送は、このための看板のようなものだったわけだが・・・筆者にとっては、少々高すぎる看板のように感じられる。

時代が変わって向田邦子作品はどのように描かれるのか。楽しみに待とう。


「胡桃の部屋」7月26日放送開始(全6話・火曜22時NHK総合)
公式サイト: http://www.nhk.or.jp/drama10/kurumi/





(文:久風子)

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